理事長挨拶

このたび日本質的心理学会常任理事長に就任いたしました、東京大学大学院教育学研究科の能智正博と申します。これまでは2003年度から2012年度まで、『質的心理学研究』の編集に携わり、最後の3年間はその編集委員長として本誌の充実に努めて参りました。お役目が終わってほっとしたのも束の間、このような大役を仰せつかることになり、とまどいと緊張が全くないと言えば嘘になるでしょうが、これから3年間は、他の常任理事・理事の皆さまのお力もお借りしながらさらに広く目配りし、本学会のさらなる発展を目指して力を尽くしていくつもりですので、よろしくお願いいたします。

 日本質的心理学会は2004年に産声を上げて、今年(2013年)で10年になります。最初の10年間は学会としての土台を作る段階であり、本学会は無藤隆初代理事長、やまだようこ第2代理事長のもと学会組織が整備され、会員数も1000人近くにまで発展しました。人間で言えば乳幼児期から児童期にあたり、地域コミュニティのなかで守られながらもなんとか身辺自立を果たした段階と言えるのではないかと思います。これからの3年間は、最初の10年の締めくくりの年であると同時に、次の10年の足場作りの年となるでしょう。

 この10年間、本学会の活動もあってか、我が国における質的心理学ないし質的研究の受容もずいぶん進んできたように思われます。たとえば、2008年に日本学術会議が心理学の学部教育の向上を目指して「心理学教育の基準カリキュラム」を作成・報告していますが、このなかで「方法論/技術習得」の一環として、「データ収集と質的分析」が含まれています。これは、たとえば私などが学部教育を受けていた30年前には考えられなかったことです。

 しかし質的研究のある特定部分が大学教育ないし大学院教育の課程に組み込まれたことで、本学会の役割が終わったわけではありません。むしろ、まだスタートラインに立ったばかりと言えるのではないでしょうか。質的研究は、すでに確立された方法の体系ではなく、常に新たな視点や方法を模索していく創発的な分野です。まだ、私たちはその可能性を十分に理解しているわけでもないし、それを様々な実践場面で十全に生かせているわけでもないと私は考えます。

本学会は、そうした質的研究の普及および発展に今後も貢献したいと思いますが、学会が独り相撲をとっていてもあまり意味はありません。やはり会員の皆様ひとりひとりの研究や実践の積み重ねのなかで、結果的に質的研究が普及・発展していくことが望まれます。本学会は、質的研究に関わる情報が行き交うハブ的な存在として、これまで行ってきた活動をさらに豊かにしていきたいと考えています。

これからの3年間で本学会が行うべきこと、行えることは多岐にわたりますが、具体的には次の3つを考えています。

1.震災・原発事故への対応に関わる活動や心理師(仮称)の国家資格化に伴う実践への関与など、コミュニティとの関わりを強めていくこと。

2.質的研究への関心の広がりに伴って高まっている、教育・トレーニングへのニーズに様々なチャンネルを使って応えていくこと。

3.国内外の他学会、他領域の研究者との協力や連携を拡充し、新たな動きを積極的に取り入れるとともに、様々な分野における質的研究の可能性を探ること。

以上の方向はまだ私案であり、より現実的なプランは今後、常任理事・理事の先生方の協力を得ながら、方針を決定し実行していくことになるでしょう。財政状況の厳しいなかどんなことがどこまでできるか未知数の部分もありますが、様々な可能性を探っていきたいと思っています。会員のみなさまはもちろん、現在非会員のみなさまも、もし質的研究の実践やその応用にご関心がありましたら、是非会員となって私たちの活動の一翼を担っていただければと思います。よろしくお願いいたします。

日本質的心理学会第3代理事長 能智正博

理事一覧

理事長
能智正博

常任理事 (五十音順)
伊藤哲司    尾見康博  鹿嶌達哉  サトウタツヤ
永田素彦  細馬宏通  安田裕子  やまだようこ

理事(五十音順)
秋田喜代美  岡部大介  樫田美雄  川野健治  田垣正晋
西村ユミ   森岡正芳  矢守克也  好井裕明 

監事
荒川歩  斉藤こずゑ

歴代の理事長・理事

歴代の理事長・理事(PDF)